がん免疫治療と免疫細胞治療がん免疫治療と免疫細胞治療

5.免疫細胞治療のこれから

複合的がん免疫治療の確立

最近がん患者さんの体内において、がん抗原やMHCクラスI分子などの発現低下による腫瘍の免疫原性の低下や、がん細胞が産生/誘導する多様な免疫抑制分子や免疫抑制性の細胞が誘導されることにより、がんの免疫抑制性環境が成立するという問題が明らかになってきました。さらに実際の患者さんが受けている治療により誘導される免疫抑制も加わります。

これまで私たちは腫瘍に対する免疫応答を如何にして誘導するか?増強するか?に着目して治療法を開発してきましたが、これまで実施してきた単純な能動免疫法だけでは抗腫瘍効果が不十分である事はあきらかであり、免疫治療の障害となる抑制性の因子を制御することが求められています。
2011年3月に抗CTLA-4抗体 (Ipilimumab) が米国FDAから承認された点は象徴的な出来事です。CTLA-4はT細胞の表面に発現し、T細胞の活性を抑制することで自己免疫機能を抑える分子であり、CTLA-4完全ヒト抗体製剤のIpilimumabは、CTLA-4の機能を抑制し(抑制作用を抑制することは活性化につながる)、抗腫瘍免疫応答を増強すると考えられています。
抗体治療薬ではありますが、その作用機序は細胞性免疫応答の増強です。治療抵抗性のメラノーマの患者さんにおいて、コントロール群の全生存中間値6.5ヶ月と比較して、Ipilimumabの投与を受けた群では、全生存期間の中間値は10ヶ月であり、患者さんの延命効果を明確に証明しました。同様の免疫抑制性のシグナルを制御する抗PD-1抗体の開発も期待されています。

今後は免疫細胞治療の開発のためには、免疫抑制を解除する治療(Ipilimumabなど)を組み込むことが重要です。さらに抗癌剤治療や放射線治療においても、免疫抑制の制御・解除によりその治療効果を増強することが可能と考えられています(表)。個々の患者さんにおいて、これらの組み合わせを最適化することがこれからの課題であり、今後は免疫抑制解除法と免疫増強法を併用した複合的がん免疫治療の確立が求められています。

化学療法剤による免疫応答の増強

化学療法剤 免疫系への作用部位
Pacritaxel, Doxorubicin, MMC, methotrexate, Gemcitabine 抗原提示
Pacritaxel, Vinblastine, 樹状細胞の活性化
Cyclophosphomide, Fludarabine リンパ球の増殖(ホメオスターシス増殖)
Gemcitabine, Taxans 腫瘍への浸潤
Gemcitabine, Cyclophosphomide, Taxans 免疫抑制性細胞の制御
Cisplatin, 5-FU, 5-aza-2’deoxycitidine 腫瘍の認識に関わる分子の発現増強
5-FU, CPT-11, Cisplatin, Taxans, Doxorubicin 腫瘍の感受性の増強

メラノーマに対するCTL治療は現在もっとも強力で、信頼できる免疫細胞治療ですが、TCR遺伝子導入技術の確立により、メラノーマ以外の固形がんにおいてもCTL治療が実現可能になると期待されています。

がんワクチン治療は、当初期待されたほどの免疫誘導効果と抗腫瘍効果を実証することは容易ではありませんでしたが、遂にPROVENGE®がFDAの承認を受けるに至りました。

また免疫抑制環境を改善する免疫制御抗体Ipilimumabの承認は、これからの免疫治療が、複合的がん免疫治療の重要性を示唆するものと考えています。

腫瘍内に存在する免疫細胞が腫瘍内の微小環境に影響を及ぼし腫瘍の増殖にも深く関与していることや、標準治療である化学療法や放射線治療も深く生体の免疫応答に影響を及ぼしていることなど、腫瘍免疫に対する興味は尽きることがなく、がんの治療における腫瘍免疫は、今後もますます重要になると考えています。