がん免疫治療と免疫細胞治療がん免疫治療と免疫細胞治療

2.免疫細胞治療の歩み

1991年にベルギーのBoon博士のグループによるMAGE-1遺伝子の同定により分子生物学に基づいた科学的な腫瘍免疫が確立しました。以後、腫瘍免疫学の知見をがん治療に結びつけようとする様々な努力が試みられてきましたが、結果を得ることは困難でした。

2002年に、米国のRosenberg博士のグループは、転移性メラノーマの患者さんに対して特異的CTL移入治療を実施し、腫瘍の退縮を認めたと報告し、生体の持つ細胞性免疫応答が、実際に進行がんを制御し退縮させる能力を持っていることを証明しました。
最新のデータでは、測定可能病変を持つ転移性メラノーマの患者さん93例中20例で腫瘍が完全に退縮し32例で部分的に退縮を認め、RECIST基準での奏効率は56%であったと報告されています。
メラノーマ以外の固形がんに対しては、必ずしも患者さんから腫瘍特異的なCTLを培養することが容易ではないため、同様の治療は困難でした。しかし腫瘍特異的T細胞受容体(TCR)遺伝子を患者さんの末梢血リンパ球に導入することにより、自己のCTLを誘導することが困難な患者さんにおいても遺伝子改変型CTLを作製し治療が可能であることが、2006年に同じRosenberg博士のグループから発表されました。
腫瘍特異的CTLからTCR遺伝子をクローニングし、レトロウイルス又はレンチウイルスベクターを用いてTCR遺伝子導入したT細胞を用いることで、これまでCTL治療の対象にならなかった固形がんに対してもCTL治療が実現可能であると期待されています。

基礎研究や第I相、第II相臨床試験では抗腫瘍効果が期待されたがんワクチンも、その多くが第III相臨床試験においては、有用性を示すことができませんでした。Nature Medicine誌において、440例のがんワクチンの奏効率は2.6%であったと酷評された頃、2004年から2005年にかけて世界中のがんワクチンの研究者、開発担当者と規制当局が the Cancer Vaccine Clinical Trial Working Group (CVCTWG) を結成し、がんワクチン治療開発の課題を検討し、そこで得られたコンセンサスを「A clinical development paradigm for cancer vaccines and related biologics」として発表し、がんワクチン開発の努力が続けられました。

多くの研究者から下記のような問題点が指摘されていました。
1)転移を有する進行がん患者では、病態の悪化までの期間が短く、がんワクチンによって誘導される抗腫瘍効果の発現までの時間を確保することが困難であること
2)担癌状態による免疫抑制性の環境や、化学療法や放射線治療などの前治療による免疫能の低下状態にあっては、適切な抗腫瘍免疫応答を誘導できないこと
3)がんワクチンの作用機序から鑑みると、術後や前治療による完全奏効状態を対象とする臨床試験のほうが望ましいこと

これらの問題点を克服するには、臨床試験のデザインや対象患者の設定、そしてその評価法が非常に重要であることが報告されました。このような努力により2007年頃から、米国に先んじて欧州においてがんワクチンが承認されるようになりました。2009年には、米国FDAから治療目的のがんワクチン開発に関するガイダンスが発表され、2010年ついに紆余曲折を経てPROVENGE®が前立腺癌に対する初の細胞医薬品としてFDAから承認されたのです。第III相多施設共同無作為化比較試験を経て、患者さんの生命予後の改善を証明することによりFDAの承認を受けた最初のがんワクチンです。

免疫細胞治療の歩み